ToCアプリにおけるリテンションの高め方
リテンションの重要性
リテンションレートを5%向上した際、利益が25~95%も増加するということがハーバードビジネススクールのレポートそしてKPMGのレポートによっても明らかにされています。
実際、新規ユーザーの55%が7日後リテンションするDuolingoは、売上のほとんどがサブスクですが売上は800億を超えており、2兆円もの時価総額が付いています。
結局、ToCアプリケーションにおいてはリテンションレートこそがグロースファクターになります。
ではどうすればこのリテンションレートを高めることができるのでしょうか?
リテンションレートを高める
どうやってリテンションレートを高めるか?
結論としては内発的動機付けを高められるプロダクトか?に収束すると考えています。
内発的動機付けを高められるプロダクトか?
なぜ『内発的動機付け』というものが重要なのでしょうか?
リテンション――すなわちユーザーがプロダクトを継続的に使い続ける状態をつくるためには、「習慣化」や「ハマる体験」が不可欠です。
そして、その根底にあるのが 内発的動機付け です。
内発的動機付けとは、「報酬がもらえるから」などの外的な要因ではなく、自分の内側から湧き上がる“やりたい”という感情によって行動する状態を指します。
たとえば、「気づいたらInstagramを開いていた」「Twitterをなんとなく見ていた」
このような体験は、金銭やポイントといった外発的インセンティブで動機づけされておらず、純粋に“続けたい”“もっとやりたい”という内発的な動機づけによって引き起こされている行動だと思います。
実際に心理学の研究(例:The Structure of Intrinsic Motivation)でも、内発的動機付けが高いほど、以下のような効果があることが明らかになっています。
行動のパフォーマンスが高まる
行動の持続性が強まる
長期的な習慣化につながる
つまり、リテンションを高めるには、ユーザーが「やらされている」状態ではなく、「自ら進んでやりたい」と思える環境づくりが必要なのです。
実際、日常的に使われているSNSやゲームアプリを思い返してみてください。
多くの人が「外発的な報酬が欲しいから」という理由ではなく、無意識のうちにアプリを開いているはずです。そこには、「楽しい」「もっとやりたい」といった内発的動機が働いています。
だからこそ、まず問うべき
あなたのプロダクトには、ユーザーの内発的動機を引き出す仕組みが備わっているか?
これがリテンション設計を始める出発点になります。
内発的動機付けを高める。
ではどのようにして内発的動機付けを高めると良いのでしょうか?
実は内発的動機付けを高める理論は19世紀後半より研究されており、現在では自己決定理論というモチベーションを理論化した学術も確率されているくらい明確化されつつあります。
今回はこの自己決定理論、内発的動機付けに関するレビュー論文を参考にどうすれば内発的動機付けを高められるのか説明していきます。
まず結論から説明すると、人間には
「自律性」(自分で選択し行動したい欲求)
「有能感」(成長や達成によって自分の能力を実感したい欲求)
「関係性」(他者とつながり認められたい欲求)
という3つの基本的心理欲求があり、
これらが満たされることで内発的な動機づけが高まるとされています。1つ1つ説明していきます。
【自律性欲求】自分で選択し行動したい欲求
人間は本来、「自律性欲求」という自分の行動は自分で選択したい。コントロールできる環境にいたい。といった欲求を抱えている生き物であり、この欲求を満たされることで内発的動機付けが高まるのです。
例えばこの欲求の1つを活用した「タスクを選択させる」という手法があリます。「自分で選択したタスク」と「課されたタスク」どちらがモチベーション湧きやすいか?おそらく想像してもらえれば、やはり自分自身で選択したタスクの方がモチベーションが高まりやすいのは明確だと思います。
事実、選択の自由や自己主導性の感覚を与えることでユーザーの内発的な意欲が向上することが研究で示されています。
https://selfdeterminationtheory.org/SDT/documents/2000_RyanDeci_SDT.pdf#:~:text=Also%2C%20research%20revealed%20that%20not,January%202000%20%E2%80%A2%20American%20Psychologist
この「選択の自由や自己主導性の感覚」という手法はゲームによく活用されており、この活用ができてるからこそ、ユーザーはハマります。
例えばモンストを見てみましょう。
実はモンストをこういった観点より見ると、以下のように選択という行為が、サービスのどこもかしこも設計されています。
この仕組みがあるこそ、ユーザーは好奇心を引き立てられ、行動したり快感を覚えたことでゲームをすること自体に楽しみになる。つまり内発的動機付けによって動機付けされるのです。
他にも自律性欲求はTwitterなどにも上手く活用されています。
Twitterではサービス参加後、自分のプロフィール写真を変更したり、名前やBioを変更させたりなど半強制的ではあるものの選択、自己決定の機会を与えていたり
また、オンボーディングで好きなカテゴリーなどを聞いてくるように設計されていたり、非常に優れたレコメンドアルゴリズムが構築されています。
これの何が凄く良いかというと、『自分の理想通りのタイムライン(レコメンド)が反映されたする』=『自分の行動がコントロールしている感』が出ることで自律性欲求が満たされるため、ユーザーは快感を覚えるのです。
自分の好きなカテゴリーを選択させるだけでも、『自分のためのサービスなんだ!』と、自律性欲求を刺激させることができるので、漫画、動画などのコンテンツ主軸のサービスはカテゴリー選択をオンボーディング時点で選択させると効果的です。TikTok、Twitterなどは本当に凄く良い例で、本当にこの欲求に沿った凄く良いサービスだと思います。
この仕組みがあるこそ、ユーザーは好奇心を引き立てられ、行動したり快感を覚えたことでゲームをすること自体に楽しみになる。つまり内発的動機付けによって動機付けされるのです。
【有能性欲求】成長や達成によって自分の能力を実感したい欲求
次に有能感欲求について説明していきます。有能感欲求とは「成長や達成によって自分の能力を実感したい」という欲求です。
ではどのようにすると有能性欲求を満たせるような仕組みが作れるのでしょうか?これにはユーザーの有能感を高めるためのフィードバックの与え方が重要です。人は何か行動した際に、その結果や評価が返ってくることで「うまくいった」「もっと頑張ろう」と感じます。
特に正のフィードバック(称賛や報酬)は内発的意欲を押し上げ、負のフィードバック(批判や失敗の指摘)は意欲を削ぐことが心理学実験で示されています 。アプリの設計では、このフィードバックループを上手に作り込むことでユーザーに継続的な達成感を与えることができます。
例えばTwitterやInstaでユーザーは考えや意見を投稿しますが、これらに反応してもらうことで有能感欲求を満たすことができる例が分かりやすいですね。
また、この有能性欲求は即効性、そして短期的な周期で感じられているか?という点もまた重要になってきます。ゲームではこういった短期的な周期で有能感を感じられるからこそ、内発的動機付けが高まりやすくユーザーは習慣化しやすいのです。
では逆に筋トレなどはどうでしょう?筋トレは結果が出た際は有能性欲求を感じることはできます。しかし結果が出るのはいつでしょうか?
最低3週間以上はかかってしまうのが現状であり、だからこそ結局挫折してしまうのです。つまり、結局短期的な周期での有能性欲求を満たせているのか?という点がかなり重要だと言えるわけです。
では実際にどのようにサービス内に組み込むと良いのでしょうか?
効果的なフィードバック設計のポイントをいくつかあげます
即時性
行動に対するフィードバックはできるだけすぐに返すようにして下さい。
例えばタスクを完了した瞬間にチェックマークや効果音を出す、ボタンを押したらすぐ画面上で反応が見えるといったような形です。
これによりユーザーは「何かをすれば確実に反応が得られる」と学習し、操作へのリワードが脳に刻まれます。ゲームで敵を倒すと即経験値が入るのと同じで、待たせないフィードバックは快感を伴いやすいわけです。
進捗の可視化
進捗の可視化とは自分の努力がどのくらい積み重なっているかを一目で把握できるようにすることです。
一般的なのは進捗バーやチェックリストの表示です。
プロフィール入力が何%完了したか示すバーがあれば、「あと少しで100%だから埋めよう」という気になりますし、Duolingoの例で挙げると各単元の達成度が見えるとコンプリートを目指したくなります。
進捗の可視化は人間の完了欲求を刺激し、区切りの良いところまでやり遂げたいという気持ちにさせます 。また日次・週次など一定期間の活動量をグラフで見せるのも、自分の習慣形成を実感でき有効です 。
小さな達成の積み重ね
大目標だけでなく、細かい目標やマイルストーンを設定し、それを達成するごとに称賛や報酬を与えます。
Duolingoはそれが上手い印象なので勉強したいのであればDuolingoを触ってみましょう。例えば「5日連続ログイン達成!」といった具合に、序盤から成功体験をどんどん積ませていたり、小さな進捗があるたびにアプリから「よくできました!」とフィードバックがあります(リーグやバッジのような)それによって、ユーザーは自分が有能であると感じ 、さらに次の目標に向かう意欲が湧きます。
ネガティブなフィードバックの最小化
少し有能性欲求とは、ズレますがタスクを失敗したり目標未達だった場合でも、頭ごなしに「失敗」と表示するのではなく、「もう少しで達成でした」「次はきっとうまくいきますよ」といった前向きなメッセージに留めるなど、ユーザーのプライドを傷つけない配慮をすることも一定重要です。
理由としては自己決定理論でも、けなされたり厳しくノルマを課されたりする状況は内発的動機づけを損なうとされているからです。
従って、アプリはユーザーを裁く場ではなく励まし続けるコーチのような存在を目指すべきだと考えています。
Duolingoは本当にそれを体現したベストソリューションだと感じています。
【関係性欲求】他者との関係性を感じられている設計か?
最後に関係性欲求について説明していきます。
関係性欲求とは「自分は他者から承認され、つながっているかを確認したい」といった欲求のことを指します。
実際、教育環境で学習者同士や教師との関係性を築くことでどれだけの効果が得られるのかを探る研究を見ると、関係性が高ければ高いほど、学習者は自己決定的な学習態度を持つようになるなどの実例も出ているほど、関係性がある状態とない状態でのエンゲージメントの差は大きいとされています。
また、Pelotonという、ハードウェアのエアロバイクに加えサブスクでフィットネス動画コンテンツを提供しており、NPS(顧客満足度)は91/100であり全米2位と高いScore、継続率(12ヶ月後に利用を続けている)も高く2022年第一四半期には92 %という脅威の数値を生み出しているサービスがありますが、Pelotonは特段、関係性欲求に視点をおいたプロダクトを制作しています。
Pelotonでは「ワークアウトクラス」リアルタイム(ライブ)でインスタラクターが指導を受けられる。同じクラスにいる他のユーザーの名前や成績を見ることが可能。といった機能や「High Fives」他のユーザーにエールを送れる機能があったり、こういった形で他のPelotonユーザーとリアルタイムに応援し合ったり、競い合ったりできる機能があり、インストラクターやユーザー同士、関係性を高めることできます。
またこういったエールやインストラクターからの直接的な指導は、同時に短期的な有能性を得ることができています。
報酬設計について考える
上記欲求を満たしてあげるような設計にすることが一定重要だと理解はされたと思います。
しかしアプリ開発において上記欲求を満たしてあげるための報酬設計は悩ましいポイントです。外発的報酬(例:クーポン、金銭的インセンティブ、物理的賞品など)は直接的にユーザーを惹きつける効果がありますが、使い方を誤ると内発的動機づけを阻害してしまう恐れがあるからです。
これは心理学で「アンダーマイニング効果(過正当化効果)」とも呼ばれ、もともと楽しんでいた活動に報酬を与えると、報酬が目的化してしまい純粋な興味が薄れる現象です。
しかし、現状有能性を満たしてあげるために、ポイントやバッジといった報酬を完全になくすことはできませんし、適度な報酬はユーザー体験をリッチにします。
肝心なのは外発的報酬をどう位置付けるかです。ベストプラクティスとしては、外発的報酬を内発的動機づけをサポートする「補助輪」のように扱うことが挙げられます。いかに具体策を挙げます。
報酬に意味を持たせる
与える報酬がユーザーの価値観や成長に紐づくようにします。
例えばDuolingoを例に挙げると、単にEXPを与えるより「〇〇リーグ到達!」の称号を与える方が、ユーザーは自身のスキル習得を認められたように感じます。報酬を能力の証明や努力の記念と位置付けることで、外発的でありながら内発的満足感を引き出せるわけです。
過度に制御しない
報酬を与える条件が過剰に細かかったり、ノルマ達成を強要するようなものであったりすると、ユーザーはコントロールされている感覚を持ってしまいます。自己決定理論によれば、締め切りや厳しすぎる目標は内発的動機を減退させます。したがって、報酬条件は適度に緩やかに設定し、ユーザー自身のペースで達成できる余地を残しましょう。
サプライズ要素の活用
予期せぬタイミングでの報酬(サプライズ報酬)は内発的動機を損ねにくいとされています。ユーザーが期待していなかった褒賞はコントロール感を生まず、純粋な喜びとして受け取られやすいからです。
例えば一定期間続けて利用してくれたユーザーに突然プレミアム機能の無料開放券を贈る、といった演出は「やってて良かった」というポジティブな驚きを与えます。
報酬に頼りすぎない
モチベーション設計の基本は、報酬がなくても価値のある体験を提供することです。報酬はあくまで補助輪であり、ドラクエでいうバイキルトのようなバフ的ものです。つまり補助輪やバイキルトがなくてもユーザーが楽しめるコンテンツや仕組みが土台にあるべきなのです。
報酬のバランスは常にモニタリングし、ユーザーの反応を見ながら調整する必要があります。
「報酬がもらえないとやる気が出ない」「報酬目当てで無理をしてしまう」という声がある場合、それは内発的動機づけの阻害シグナルです。
この場合は条件を緩和したり、報酬以外の喜び(例えばコミュニティ要素やコンテンツの充実)を強化したりすることが求められます。
要は、外発的報酬と内発的動機づけは二者択一ではないということです。報酬=楽しさの一部と感じさせる演出ができれば、外発的報酬も内発的モチベーションの一部に取り込むことが可能なのです。
まとめ
今回はリテンションを高めるためには、そもそも「ユーザーの内発的動機付けを高める必要があるよ」そしてそのためには内発的動機付けにより行動を促す必要があり「自律性欲求、有能性欲求、関係性欲求」を満たすような環境や支援が必要である。ということをNoteとしてまとめてみました。
ただこういったサービス、体験設計をUI /UXとして落とし込むのは非常に難易度が高いため、もしこの辺りを設計したい。といった事業者さんいましたら、
弊社は体験設計のデザインコンサルティングを行っているのでぜひお気軽に以下にご連絡ください。